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膵臓がん

膵臓がんとは

膵臓にできる腫瘍として膵臓がん(膵がん)があり、他に神経内分泌腫瘍や嚢胞性腫瘍があります。

膵臓がんの多くは膵管の中にできる膵管がん(浸潤膵管がん)で、膵管がんは膵臓がんの9割程度にもなります。

膵臓は消化酵素を含む膵液を分泌するという働きとインスリンなどのホルモンを分泌するという二つの大きな働きがあります。

膵臓がんを発症すると、これらの働きが徐々に低下し、腫瘍によって膵管や組織が圧迫されることで症状が現れはじめます。

しかし、特徴的な症状に乏しく、早期発見が難しいがんの一つだとされています。

日本人と膵臓がん

膵臓がんの罹患率は10万人に25~30人程度と言われ、日本や欧米諸国では主要ながんの一つですが、日本の罹患率は世界でも高い方だとされています。

男女別の罹患率では男性が10万人に約29人、女性が約25人となり男性にやや多いことが言えます。また、死亡率においても男性の方が女性より高くなっています。

日本における膵がんの罹患率を年齢別に見ると40歳代位から増えはじめ、60歳代以上では明らかに上昇し、年齢を経るほど高くなります。

全がんの部位別の死亡数では膵臓がんが第4位となり、日本人のがん死因の中で膵臓がんは主要な一つであることが言えます。

難治がん

膵臓がんの統計を見てみると罹患率と死亡率に大きな差がなく、他のがんに比べて難治だと言われています。

死亡率は1990年代までは低下傾向でしたが、それ以降は横ばいといった状態です。

膵臓がんの初期では特徴的な症状が乏しいことからも早期発見が難しく、診断時には既に進行していることも少なくありません。

また、膵臓の手術は難しい手術になることが多く、合併症のリスクも高い手術でもあり、術後の転移や再発率も低くありません。

高齢者の膵臓がんが増えているため、体力的に手術が難しい場合や既に進行していて手術適応でないことなど、膵臓がんの死亡率が他のがんと比べて高いのにはこれらのような理由も考えられます。

一方で抗がん剤治療や放射線治療の進歩により、高い治療効果が得られるという研究発表もあり、今後の調査で5年生存率の改善も期待されています。

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膵臓がんの生存率

生存率とステージ

膵臓がん(膵がん)の生存率は、がんの発生した部位やステージ(病期)よって大きく異なってきます。

膵臓がんのステージは、腫瘍の大きさや転移の有無によって0期~Ⅳ期まであり、転移や再発のしやすさ、治療効果等が変わってきます。つまり、生存率が異なるということになります。

生存率の意味

全がん協(全国がん(成人病)センター協議会)のホームページでは、ステージ・年齢層・性別・治療方法によって生存率を見ることができます。

生存率という数字は、主にがんの「治療成績」を見るための指標とされています。がんと診断されて治療した人のうち、数年経過した後の生存者の割合を表しているのが「生存率」です。

治療後の経過年数が5年であれば5年生存率、10年であれば10年生存率ということになります。

但し、生存率には転移や再発の有無・健康状態などは問いません。

生存率には「相対生存率」と「実測生存率」とあり、実測生存率は死亡数を差し引いた生存数から見た割合を単純計算したものです。死因を含んでいない数字です。

一方の相対生存率は、年齢や性別などのように死因に影響するがん以外の要素を除外して計算された数字です。

膵臓がんにおいては高齢者の患者が多いため、年齢が生存率に影響することも少なくありません。

このため、がんの治療成績の目安としては相対生存率を見るのが適切だとされています。

膵臓がんの5年生存率

2017年2月集計の膵臓がんの最新の5年相対生存率は以下の通りです。※全年齢層・男女別なし、全3,820件。
  • Ⅰ期:41.2%(234件)
  • Ⅱ期:18.3%(789件)
  • Ⅲ期:6.1%(751件)
  • Ⅳ期:1.4%(1941件)
  • 全症例:9.2%
上記は生存率は2006~2008年に膵臓がんと診断された症例の5年相対生存率です。

膵臓がんの10年生存率

最新の2000年~2003年までに膵臓がんと診断された1,218件の10年相対生存率は以下の通りです。(全部位・全年齢層・男女別なし)
  • Ⅰ期:28.6%(89件)
  • Ⅱ期:9.1%(209件)
  • Ⅲ期:3.5%(178件)
  • Ⅳ期:0.6%(617件)
  • 全症例:5.1%
3か年の集計結果を挙げていますが、集計数が少なく治療方法が古い場合があるため、統計としての信用性は低いと言えます。

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膵臓がんの原因

膵臓がん(膵がん)とは、膵臓の組織にできるがんで主に膵管がんを指しています。

膵臓がんの原因ははっきりと解明されていませんが、罹患者に共通する特徴などを見ていくと色々なリスク要因があることがわかってきます。

膵臓がんのリスク要因を大きく分けると、生活習慣、環境要因、疾病要因とがあります。

生活習慣・環境要因

膵臓がんの発生に関連性が指摘されている生活習慣や環境には以下のようなものがあります。
  • 年齢
  • 性別
  • 遺伝、家族性
  • 喫煙
  • 飲酒
  • コーヒー・緑茶
  • 肥満・運動不足
  • 食習慣

環境要因(年齢・性別・遺伝)

膵臓がんの患者数を統計で見てみると高齢になるほど増加傾向にあり、男女比では男性の発症率が高くなっています。

これについては生活習慣の変化や男性では、飲酒率や喫煙率の高さなどとの関連性が指摘されています。

また、膵臓がんは家族内での発がん率が5~6%となり、遺伝や家族性の要因も考えられています。

尚、遺伝性膵炎・家族性大腸ポリポーシス・遺伝性乳がん卵巣がん症候群などの遺伝性疾患においては、膵臓がんの発生率が高くなることが知られています。

生活習慣的な要因

飲酒・脂っこい、糖分の多い食事といった生活習慣や、インスリン分泌に関連してくる、運動不足・肥満といった要因は、膵臓がんの罹患率と関連が深いという指摘があります。

また、膵臓をはじめとする消化器官は自律神経系の影響を大きく受けます。このため、ストレス・喫煙・睡眠不足等も膵臓の病気に影響があることが考えられています。

中でも膵臓がんの発生と相関関係が統計上で見られているのは、喫煙肥満です。

いずれにおいても喫煙者・肥満者では、膵臓がんの発生率が上昇することが報告されています。

飲酒(アルコール)は膵臓がんの発症リスクとの関連性は明らかではありませんが、飲酒と喫煙の両方の習慣がある人は習慣のない人と比べてリスクが10倍上昇します。

逆に膵臓がんのリスクを下げると言われている生活習慣には、禁煙・コーヒー・運動習慣・バランスのとれた食事・適正な体重などが挙げられています。

疾病要因

膵臓がんの発症に関連が見られる疾病には以下のようなものがあります。
  • 糖尿病
  • 慢性膵炎
  • 膵嚢胞性腫瘍
  • 遺伝性膵炎

糖尿病

糖尿病は、膵臓がんとの関連性が深い病気の一つで、糖尿病歴があると膵臓がんの発症率が高まることが報告されています。

また、糖尿病の人が急に血糖値のコントロールが悪くなる場合や、高齢者で急に糖尿病を発症した人は、膵臓がんの可能性が疑われることがあります。

慢性膵炎

慢性膵炎を罹患している人は、膵臓がんの罹患率が高まることが考えられています。

また、慢性膵炎の死亡者には、膵臓がんによる死亡者が比較的多いことが報告されています。

膵嚢胞性腫瘍

膵嚢胞性腫瘍とは、液体を包んだ袋のようなものができる腫瘍です。

膵管の内腔にできているうちは良性ですが、これが膵臓の組織の実質に浸潤すると悪性のがんになることがあります。

膵嚢胞は、膵臓の中に液体を含んだ袋のような組織ができることを指し、必ずしも悪性のものばかりではありません。

但し、膵嚢胞は慢性膵炎に伴ってできることもあり、膵嚢胞性腫瘍を含むこともあるため、膵臓がんのリスクとは全く切り離して考えられない病気と言えるかもしれません。

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膵臓がんの症状

初期症状がわかりにくい

膵臓がん(膵がん)の症状は、よく無症状と言われることがが多くあります。これは膵臓が胃などの臓器の背中側の奥まった位置にあり、症状がわかりにくい臓器の一つとされています。

また、進行していても症状が現れないことも少なくありません。

膵臓がんの初期では腫瘍マーカー検査でも明らかな変化も乏しく、早期発見が難しいことでよく知られているがんです。

代表的な症状

膵臓がんの主な症状を以下に挙げました。
  • 痛み(上腹部・みぞおち・背部など)
  • 腹部の圧痛
  • 食欲不振
  • 微熱
  • 黄疸
  • 軟便、下痢、脂肪便、便秘
  • 腹部膨満感
  • 全身倦怠感
  • 体重減少
  • 二次性糖尿病(膵性糖尿病)

痛み

膵臓がんのほとんどは、膵管がんと呼ばれるのものになります。膵管は膵臓の中を通る管で、膵臓で作られた膵液の通り道となります。

膵管がんは、膵管の内側(管の中の表面)から発生するため、がんが成長して大きくなると膵管が詰まってしまい、膵液が停滞してしまいます。

溜まった膵液によって膵管の内部の圧力が上がると痛みが起こります。酷くなると消化酵素を含む膵液によって膵炎を起こしてしまいます。

膵臓はみぞおちの背中側、胃の後ろ側辺りに位置するため、上腹部やみぞおちあるいは背中の痛みとして自覚されることが多いです。

また、炎症や痛みが強くなってくると上腹部を押さえると痛む(圧痛)ようになります。

黄疸

膵管は胆管と合流しており、胆管は胆汁を通す管で胆汁にはビリルビンという黄色い色素が便を黄褐色に着色しています。

胆汁の排出が滞るとビリルビンが排出されず、皮膚や白目が黄色くなる黄疸が出現します。

黄疸は膵頭部がんで起こりやすい症状であり、黄疸を起こすことで発見されることもしばしばです。

ところが、膵臓の中央部にできる膵体部がんや膵臓の左側末端にできる膵尾部がんでは黄疸は現れにくい症状になります。

糖尿病

膵臓がんになると膵臓の組織が変化してしまい、通常の機能を果たせないことで糖尿病に至ったり、また、糖尿病の人では血糖値のコントロール急に悪くなることもあります。

糖尿病も自覚症状には乏しい病気ですが、のどの渇き・多量の水分摂取・多尿・低血糖症状などの症状から、膵臓がんが潜んでいたということも稀にあります。

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膵臓がんの手術

膵臓がんでは、がんができた部位や範囲によって切除範囲(術式)が大きく異なり、術式によって合併症のリスクも異なってきます。

膵頭部がん

膵頭部とは、横に長い形をした膵臓をおおむね3つに分けたとき、最も右側に位置する部分です。膵頭部で膵臓は十二指腸と繋がっています。

膵頭部がんの場合、最も一般的に行われてきたのが膵頭十二指腸切除術(PD)です。

「膵頭十二指腸」切除と言っても切除が広範囲なうえ、再建(切り離したところを接合すること)も難しい手術です。

切除範囲は、膵頭部と十二指腸・胃の一部・小腸の一部・胆のう・胆管を切除し、周囲のリンパ節・神経なども切除します・

膵臓の左側は残るのでそれを小腸へ繋ぎ、さらに切り離された胃や胆管を小腸に繋いで再建が行われます。

この手術では、残った膵臓・胆管と小腸の繋ぎ目に負担がかかるため、膵液や胆汁がもれる膵液ろう胆汁ろうが起こりやすく、そこから炎症・感染・出血を起こす可能性もあります。

また、胃は小さくなり、胃と小腸のつなぎ目に負担がかかり、膵液の分泌が上手くいかなくなり、神経が切除されると食べ物の通りや消化が悪くなり、食事量が減ってしまうこともあります。

このように膵頭十二指腸切除術は、合併症のリスクが高い手術であるため、切除範囲や再建方法が工夫された術式が幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)亜全胃温存膵頭十二指腸切除術です。

これらの手術では幽門や胃を温存することで胃の機能をできるだけ残したり、胃と小腸とのつなぎ目の負担を軽減したりすることが可能とされています。

膵体部がん・膵尾部がん

膵体部とは横に長い膵臓の真ん中の部分、膵尾部とは膵臓の左端(脾臓側)を指します。

膵体部がんや膵尾部がんの場合、十二指腸と繋がっていないため、がんができた部分の膵臓とリンパ節などを切除する手術が行われます。

膵体部がんでは膵体尾部切除術、膵尾部がんでは尾側膵切除術(膵尾部切除術)が行われています。

膵尾部がんの場合、同時に隣接する脾臓も摘出する場合があります。

いずれの手術も膵頭十二指腸切除術と比べると切除範囲が少ないため合併症も少ない手術とされています。

がんが膵臓全体に及ぶ場合

がんが大きい場合や広範囲に及ぶ時には、膵全摘術が検討されます。文字通り、膵臓全部とリンパ節などを摘出する手術です。

膵全的術も膵頭十二指腸切除術に比べると合併症のリスクは小さい手術だと言えます。但し、手術後は膵臓の機能が失われるため、他の手術の根治が期待できないような場合にのみ行われます。

術後は膵機能が失われることによってインスリン分泌がなくなるため、インスリン注射による血糖コントロールを自己管理することが必須となります。

バイパス手術(胃空腸バイパス手術)

バイパス手術は、切除不能がんに対して検討されることがある手術です。この手術の目的はがんを切除することではなく、食べ物の通り道を作ることです。

ステージⅣ期など、大きくなったがんによって食事の通り道が細くなり、食事が摂れなくなった患者に対する緩和手術の一つです。

狭くなった十二指腸を避けて胃と空腸をつなぐ(パイパスする)手術です。

手術による合併症は比較的少なく、食事も術後比較的早期から摂取することができます。

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膵臓がんのステージ(病期)

ステージ(病期)とは、がんの進行度を表す基準です。

膵臓がんの場合では「0・Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ期」に分かれ、最も初期のものが0期で進行した状態がⅣ期となります。

日本でステージを判断する基準は、日本膵臓学会による「膵癌取扱い規約」により定められており、また、国際対がん連合(UICC)によるTNM分類もあり、両方が使用されています。

国内の医療機関において、最も効果的な治療を選択するためにがんのステージ(病期)分類は、進行度の診断には欠かせない物差しとなっています。

膵臓がんのステージは、がんの深さ・大きさ・転移の有無や程度などによって決まります。

通常、CT検査やMRI検査など各種画像検査・内視鏡的膵管造影(ERCP)・生検(組織検査)・腫瘍マーカー検査・PET検査などを経て総合的に診断されます。

ステージ分類

日本の「膵癌取扱い規約」によるステージ分類とUICCによるTNM分類では少し分類方法が異なります。
  • 0期:がんが膵管の上皮内にとどまっている(非浸潤がん)
  • ⅠA期:大きさが2cm以下で膵臓の内部に限局しており、領域リンパ節転移を認めない
  • ⅠB期:大きさは2cmを超えているが膵臓の内部に限局しており、領域リンパ節転移を認めない。
  • ⅡA期:がんは膵臓外に進展しているが腹腔動脈や上腸間膜動脈に及ばず、領域リンパ節転移を認めない
  • ⅡB期:がんの大きさに関わらず腹腔動脈や上腸間膜動脈に及ばないもので、領域リンパ節への転移を認めるもの(ⅠA期・ⅠB期・ⅡA期のがんに加えて領域リンパ節への転移があるもの)
  • Ⅲ期:がんが腹腔動脈や上腸間膜動脈に及んでいるもの(リンパ節転移の有無は問わない)
  • Ⅳ期:離れた臓器への転移(肺・脳などへの血行性転移や腹膜転移があるもの)
※上記は2016年7月第7版によるもの

第6版から第7版への改訂でUICC分類との整合性が取られ、治療方針の選択に沿ったものとなっています。

例えば、第6版ではⅣ期は、Ⅳa期(がんが膵臓の周囲の主要な血管や臓器を巻き込んでいるもの)とⅣb期(第3群リンパ節や離れた臓器に転移を認めるもの)とに分けられていましたが、第7版では遠隔臓器への転移があるものはまとめてⅣ期とされています。

UICCのTNM分類

UICC分類を見るとがんの大きさや領域リンパ節への個数などによって、膵癌取扱い規約の分類と多少異なります。
  • ⅠA期:大きさ2cm以下で領域リンパ節転移がないもの
  • ⅠB期:大きさが2cm~4cmで領域リンパ節転移がないもの
  • ⅡA期:大きさが4cmを超えるもので領域リンパ節転移がないもの
  • ⅡB期:大きさに関わらず領域リンパ節の転移があり転移が1~3個にとどまっているもの
  • Ⅲ期:大きさにかかわらず領域リンパ節転移がありその個数が4個以上あるもの、もしくはがんが腹腔動脈・上腸間膜動脈または総肝動脈に及ぶもの
  • Ⅳ期:離れた臓器への転移があるもの

内視鏡的治療(腹腔鏡手術)

「がんの内視鏡治療」と聞いてイメージされるのは、胃がんなどで内視鏡(ファイバースコープ)の先端に付けた器具で切除する内視鏡手術ではないでしょうか。

しかし、膵臓がんの場合、膵管が十二指腸と合流しているのでカメラを挿入することはできますが、膵管が細いことから挿入するカメラも細く、がんを切り取るような操作ができる器具を取り付けることができません。

そのため、膵臓がんの内視鏡治療とは、症状を和らげることを目的とした治療が中心だと言えます。がんによって膵管が圧迫されたり、内腔が狭くなった部分に内視鏡を使ってステントという膵管器具を留置し、膵管を拡げる治療(膵管ステント留置術、ERBD)が行われることがあります。

また、内視鏡を通して鼻からチューブを留置して膵液や胆汁を排泄する治療(ENBD)が行われることもあります。

このENBDでは、鼻の違和感やチューブによるのどの痛みなどが起こることがあります。

内視鏡治療のメリットは、外科手術と比べて体の負担が少ないことから、緩和治療としても行いやすい治療なことが言えます。

膵臓がんでは、切除範囲が広く切除した臓器を繋いだりする操作が複雑になります。

このため、膵臓がんの外科的手術は、内視鏡手術(腹腔鏡手術)ではなく、開腹手術の方が多くなります。

内視鏡手術の問題点は、視界や手術操作の範囲が限られること術者の技術に依存すること、全身麻酔が必要であることなどがあります。

膵臓がんの内視鏡手術は、非常に高度な技術が求められ、執刀できる医師も限られてきます。

上記のように内視鏡手術の対象となる膵臓がんの事例も少ないため、全国でもあまり実施されていないことが言えます。

尚、腹腔鏡下膵体尾部切除術は、保険適応となっていますが腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術は保険適用外(先進医療)であるため手術費用も高額となっています。

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膵臓がんの化学療法

化学療法は全身治療

膵臓がんの治療は、膵がん取扱い規約に沿って決められ、ガイドラインでは切除可能であるなら外科的手術を行うのが根治的とされています。

しかし、手術による膵臓がんの切除が難しい場合には化学療法が検討されます。

化学療法の目的は、手術では取り切れないがん組織、血行やリンパに乗って運ばれているがん組織を全身的に治療することとなります。

また、術後の再発や転移を予防するための治療としても化学療法はよく行われています。

膵臓がんが再発では、基本的には手術は対象外となるため、化学療法が適応されます。

化学療法の種類

膵臓がんでは、以前まではフルオロウラシル(5-FU)がよく用いられていますが、現在はゲムシタビン(ジェムザール)が第一選択薬となっています。

がんの広がり具合、その方の体力、これまでに化学療法を受けた経過などによってメニューが選択されます。また、メニューによっては外来での治療も行われています。

FOLFIRINOX療法

オキサリプラチン、イリノテカン、レボホリナートCa、フルオロウラシル(5-FU)の4つの薬剤を点滴で投与する方法です。

先の3剤を投与し続けてフルオロウラシルを46時間点滴で持続投与する1コースを2 週間ごとに繰り返し投与されます。

ゲムシタビン(ジェムザール)+ナブパクリタキセル(アブラキサン)併用療法

週に1回上記2種類の抗がん剤の点滴をします。

これを3回(計3週間)投与し4週目は休薬する流れを1コースとして繰り返して行われます。

ゲムシタビン(ジェムザール)単剤治療

週に1回ジェムザールの点滴をします。これを3回(計3週間)投与して4週目は休薬とします。これを1コースとして繰り返す治療です。

ゲムシタビン+エルロチニブ(タルセバ)併用療法

先ほどの③の治療に加えてタルセバを内服する方法です。ゲムシタビンは週に1回点滴し、3週行って4週目は休薬します。タルセバは毎日1回飲み続けます。

S-1(TS-1)単剤療法

S-1(TS-1;ティーエスワン)とはテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤です。1日2回朝・夕にTS-1を内服します。4週間続けて内服して2週間休薬を繰り返すのが標準治療です。

以上のようなメニューに加えて放射線療法も並行して行われることもあります。

※上記で紹介した抗がん剤の種類や投与方法(治療内容)に関しては、あくまで一般的な内容となります。治療を受けられる医師や施設、時期によって変わってくる可能性もあります。必ず担当医や看護師に確認するようにしてください。この内容は2017年12月現在のものです。

術後補助化学療法

手術後に再発・転移の予防を目的として行われるのが術後補助化学療法です。生存期間の延長に効果があるとされています。

膵臓がんの術後補助化学療法として一般的に行われているのは上記の③ゲムシタビン単剤療法と⑤S-1単剤療法とされています。

化学療法前後の検査

化学療法の前には各種検査を行って、現在の骨髄の状態や腎機能・肝機能・血糖値・心機能などを把握しておきます。抗がん剤治療は正常な細胞にも影響があり、これによって副作用が起こる可能性があります。

代表的な副作用としては、骨髄抑制(白血球・赤血球・血小板の減少)や腎機能・肝機能の低下、食欲低下や吐き気・食事摂取量の減少、血糖コントロールの不調などが挙げられます。

化学療法中や終了後にも血液検査などを行って副作用の状態を把握します。また、治療前には腫瘍マーカー検査や画像検査によって治療前の膵臓がんの状態も把握しておきます。

これは化学療法後にも同じ検査を行って、化学療法の効果を判定する必要があるからです。化学療法後の検査で治療効果が小さい場合、抗がん剤治療のメニュー変更などが検討されます。

入院治療と外来治療

抗がん剤のメニューやその方の体力などにもよりますが、長時間の点滴を要するものや副作用の恐れが強いものでは入院治療となります。

S-1単剤療法などでは外来で行われることもあります。

外来で化学療法を行う場合、患者自身が抗がん剤の副作用について理解して、通院や内服を欠かさず行うなど自己管理できることが大事です。

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膵臓がんの放射線治療

放射線治療とは、医療放射線を照射し、がん細胞を壊したり成長を抑制して組織を小さくさせたり増殖を抑える治療です。

膵臓がんに関しては、放射線の効果が低いがんだとされています。

そのため、放射線療法が単独で行われることは少なく、抗がん剤と併用されたり、術後に残った組織に対して使用されることが多くなります。

放射線治療には、外から放射線を当てる外部照射と、放射性物質を取り込んで体の内部から放射線を当てる内部照射とがあり、膵臓がんでは外部照射が一般的です。

放射線治療の目的

膵臓がんで手術が不可能な場合、化学療法(抗がん剤治療)が行われるのが一般的となります。

化学放射線療法

化学療法に組み合わせて放射線治療を併用する方法があり、これが化学放射線療法です。

明らかな遠隔臓器への転移(肺などへの血行性転移や腹膜転移など)がなく、局所でがんが血管を巻き込んでいるような場合に行われる治療です。

化学放射線療法は、一定の効果が評価されており、標準治療としても推奨されている治療です。

補助放射線療法

外科手術と組み合わせて行われる放射線療法を補助放射線療法と呼びます。

術後に残ったがん組織に対して行われ、放射線療法のみの場合もありますが抗がん剤と併用で化学放射線療法として行われることもあります。

また、術前に化学放射線療法を行ってがん組織を小さくしてから手術が行われる場合もあります。

緩和的放射線治療

がんによる強い痛みや、転移によって腹痛や吐き気・便通異常・腹水・腹部膨満感などの様々な症状が現れることがあります。

がん組織を小さくして症状を緩和する目的で行われるのが緩和的放射線療法です。

膵臓がんの放射線治療の実際

治療方針・照射部位・照射線量・期間など治療方法・治療計画の決定

膵臓がんと診断されると同時にステージ診断(病期=がんの進行度の診断)がされます。このステージ診断に基づいて治療方針が選択されます。

放射線治療が決まると、CT検査やMRI検査などの画像検査でがんの場所や大きさを知り、放射線治療の計画(照射線量や照射期間の計画)が立てられます。

また、血液検査などによってその時の体力や全身状態を把握します。

治療期間中

放射線治療中は週1回前後の採血を行って副作用の状況を確認します。場合によっては外来で採血や診察を受けながら治療をすることも可能です。

治療が終了したとき

腫瘍マーカー検査や画像検査で治療効果の確認をします。治療効果によっては追加照射が行われて照射期間が延長する場合もあります。

放射線治療の副作用

放射線治療には主に以下のような副作用が挙げられます。

照射部位や照射線量によっても症状には差がありますが、一般的には照射線量が多く長いほど副作用のリスクは高くなります。
  • 骨髄抑制(白血球などが減少して感染しやすい状態になること、赤血球が減少にして貧血症状が出ること、血小板が減少して出血しやすい状態になること)
  • 全身倦怠感
  • 食欲不振吐き気食事量の減少(腹部への照射では胃や腸の粘膜が荒れてしまうことがある)
  • 皮膚炎(照射部位の皮膚に炎症を起こして赤くなりかゆみや痛みや乾燥が起こる)
  • 下痢(腹部リンパ節や腹膜転移などに照射すると起こりやすい)
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膵臓がんの重粒子線治療

放射線には色々な種類がありますが、ヘリウムイオン線よりも重い電子線は重粒子線と言われ、これを利用してがんなどの病変を壊す治療方法が重粒子線治療です。

X線を使った通常の放射線治療は、体の外から放射線を当てると体の表面にエネルギーのピークがきて、体内に進むほど効果が弱まります。

膵臓は体の深い位置にあるため、効果が十分に得られないことや膵臓より手前にある皮膚や胃腸に放射線の副作用が出やすいことが考えられます。

対して重粒子線治療では、エネルギーのピークを狙った場所に設定できるため、体の深い位置にあるがんを狙い撃ちして副作用を減らすことが可能となります。

世界に先駆けて日本で発達してきた治療方法となり、治療できる病院も治療対象になるがんも限られています。

膵臓がん(膵がん)は、重粒子線治療の対象になっているがんです。

重粒子線治療の適応

重粒子線治療の適応に関しては、膵がん取扱い規約にある膵臓がんの進行度(ステージ・病期)分類に基づいて決定されます。

また、術前療法として行う場合は「初回治療であること」、切除不能な局所進行膵がんの場合には「過去に放射線治療が行われていないこと」などが適応条件となります。

尚、重粒子線治療は、限定した箇所を狙って照射することを得意としているため、限局した部位のがんの治療に適しているとされています。

重粒子線治療の効果

術前治療では重粒子線治療によって周囲の正常組織への副作用を減らしつつ、がん組織を小さくすることで術後の局所再発を抑える効果が期待できます。

また、局所進行がんも同様に通常の放射線治療よりも副作用が少なく、膵臓の周囲の組織に進行したがんに対して腫瘍を抑える効果があったことが報告されています。

重粒子線治療で注意したいこと

重粒子線治療は新しい治療方法とされ、膵臓がんでも適応になるのは一部になります。

高度先進医療の対象であり保険適用外であるため、費用は高額となり設備のある病院も限られています。

また、先ほど挙げた膵臓がんとしての適応条件以外に以下のような適応条件が求められています。
  • 患者自身が悪性腫瘍の診断・告知を受けており病識があること
  • 広範囲な全身性の転移がないこと
  • 過去に放射線治療を受けたことがないこと

重粒子線治療が行われている病院※2017年

  • 放射線医学総合研究所病院
  • 群馬大学重粒子線医学センター
  • 兵庫県立粒子線医療センター
  • 九州国際重粒子線がん治療センター
  • 神奈川県立がんセンター

膵臓がんの緩和治療

緩和治療とは、症状の緩和を目的としており、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ=QOL)を維持・向上するための治療を指します。

この緩和治療は病気(膵臓がんの場合はがん)そのものを治すための治療ではないため、区別してこのように呼ばれます。

緩和治療と言うと「がんが治らないからするもの」「終末期医療だ」という風に考えるのは早計なことが言えます。

緩和治療では、身体的な痛みだけでなく、精神的苦痛やスピリチュアルな苦痛、あるいは社会的苦痛も含め、個人を総体的にケアするものだとされています。

がんと診断された時から緩和治療によって苦痛をマネジメントし、個人に合ったより良い日常生活を選択できることが望ましいとされています。

緩和ケアチーム

がん治療にあたっている病院では、緩和治療を専門とした緩和ケアチームがあるのが通例です。

緩和ケアチームには、医師をはじめ・緩和ケア認定看護師・カウンセラーなどが中心となり、理学療法士や作業療法士・栄養士など様々な職種が参加しています。

患者さんの様々な苦痛の緩和から、よりよい日常生活の過ごし方や社会復帰に至るまでのケアが行われています。

退院後や社会復帰後にも対応できるよう、専門の緩和ケア外来が設けられている病院もあります。

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膵臓がんで起こり得る身体的苦痛と緩和治療

身体的苦痛

膵臓がんでは、腹部や背部の痛み、吐き気、嘔吐、食事量の減少、腹部膨満感などの症状が多く起こり、それに伴う睡眠障害などもあります。

がんの強い痛みは「がん性疼痛」と呼ばれるもので、緩和ケアチームの医師はこのがん性疼痛緩和の専門です。

治療では医療麻薬(オピオイドなど)や消炎鎮痛剤などの組み合わせによる薬物療法や「神経ブロック」などがあります。

また、吐き気や食事量の低下などに対しては、制吐剤などの薬物療法や栄養カウンセリング、時には胃空腸バイパス術のような緩和手術が行われることもあります。

精神的苦痛やスピリチュアルな苦痛

膵臓がんでは診断時に進行がんであることも少なくありません。

また、精神的不安や「自分の人生の意味はなんだったのか」「生きている価値がない」などスピリチュアルな苦痛を抱く方もおられます。

精神的な苦痛に関してはカウンセリングが行われ、時には睡眠導入剤や抗不安剤などの薬物治療が行われます。

スピリチュアルな苦痛についても同様にカウンセリングが行われます。医療機関によっては宗教家と連携をとっているところもあります。

社会的な苦痛

がんの治療には多額の費用がかかる場合もあり、また、仕事を長期に休んだり、時には辞めたりしなければならないケースもあります。

高額な医療費や生活費に対処できるよう、緩和ケアチームから様々な社会的資源の情報を提供したり、社会復帰のためのリハビリが行われたりします。

膵臓がんの再発・転移

再発率・再発時期

膵臓がんは再発率が高いがんとされており、術後の再発率は約9割になると言われています。また、再発時期も比較的早く、大多数が3年以内とされています。

膵臓がんが他の部位のがんと比べて、再発しやすいのには理由があります。

早期発見が難しい

膵臓は上腹部の奥にある臓器であり、特徴的な症状に乏しいことから日常的な体調不良かと見過ごされることが少なくありません。

そのため、膵臓がんの多くは進行した状態で見つかることが多く、実際には手術適応となるのは2~3割程度だとされています。

手術が適応外の進行がんにおいては転移している可能性もあり、残った病巣から再発しやすいことが考えられます。

膵臓は転移しやすい臓器

消化管の多くは筋肉や膜に包まれていますが、膵臓は後腹膜という所に位置している臓器です。腹膜播種を起こしたり、隣り合う胃や脾臓といった臓器に転移しやすいことが言えます。

また、膵臓は血管やリンパ管が網目のように臓器の内部を走っていることから、血行性転移やリンパ行性転移を早期から起こしやすいことが言えます。

膵臓の周りには、神経が発達していることから神経に沿っての転移も考えられます。

全てのがん組織を切除しきることは難しく、これが手術後の再発率の高さに繋がっているのではと考えられています。

再発が起きやすい部位

膵臓がんは、切除した残りの組織から再発することもあります。

転移として再発が起きやすい部位は、肝臓・肺・骨・腹膜・リンパ節などが挙げられます。

特に肝臓は転移しやすく、症状が現れにくいため、発見が遅れないように手術後も検診は欠かせません。

再発時の治療について

再発した場合、基本的に手術対象にはならず治療は抗がん剤治療が中心となり、転移の状態に応じて放射線療法などが行われます。

他に代替療法(通常の治療の代わりとして行われる治療方法のこと)として、免疫療法(免疫細胞療法)などを行っている医療機関もありますが保険適用外で費用も高額です。

また、治療効果については明らかではない点もあります。

手術適応

膵臓がんを含む膵臓の悪性腫瘍では、外科手術によって腫瘍をできるだけ取り除くことが最も効果的な治療だとされています。

可能であれば臓器やリンパ節を含めて、がん組織を外科手術で切除するのが標準的な治療です。但し、切除が難しい場合は、手術以外の治療が選択されます。

また、膵臓がんでは最初にステージ診断によって外科治療対象のがんであるかどうかを診断されます。

部位によっては大手術となり、体の負担が大きくなるため、体力的に手術適応であるかどうかの判断が問われます。

手術適応の判断は、ステージ診断を行うと共に手術や全身麻酔への適応の判断が必要となります。

2016年に改訂された「膵癌取扱い規約(第7版)」では膵臓がんの進行度(ステージ)の分類に加えて、「切除可能分類」というものが定められました。

切除可能分類とは、ステージをもとにして「切除可能」・「切除可能境界」・「切除不能」とに分類するものです。
  • 切除可能膵臓がん:ステージ0・Ⅰ・Ⅱ期
  • 局所進行膵臓がん:Ⅲ期
  • 転移性膵臓がん:Ⅳ期
局所性進行がんが切除可能境界にあたり、「離れた臓器への転移が認められていないもの」「リンパ節転移の数が多いもの」「近くの血管にまで広がっているもの」が含まれます。

切除可能境界では、がんの範囲がどの血管系にまであるかで転移や再発のリスクが異なるため、さらに細分類されており、その患者さんの状態に応じて手術適応や手術範囲が検討されます。

転移性膵臓がんは、血行性に他の臓器に転移が認められているがんです。

血流に乗って全身にがん細胞が運ばれている可能性があるため、基本的には手術療法の対象にはなりません。いわゆる「切除不能」ということになります。

このような場合、全身的な治療として、薬物療法(抗がん剤治療)や放射線療法など他の治療方法が選択されます。

尚、切除不能の場合であっても「痛みが強い」「食事が食べられない」「腸が圧迫されている」など症状が強い場合には、緩和治療としての手術が行われることもあります。

全身麻酔や外科手術への適応

膵臓がんは、高齢になるほど発症率が高くなり、患者の高齢化が進んでいるがんです。

膵臓がんの外科手術では全身麻酔が必須です。

全身麻酔や手術に耐えうるような体力(例えば血圧が安定している、呼吸機能に問題がない、歩行できる、などの条件)が求められます。

全身麻酔手術の対象範囲は、その病院によって異なり安全のために年齢制限を設けている場合もあるので、外科医だけでなく麻酔医ともよく相談しておくことが大事です。

また、膵臓がんの手術では、様々な合併症の可能性があります。

術後に長期間に食事を食べることができなくなったり、インスリン注射が必要になる場合もあります。

このため、術後の長期の療養に耐えうることや自己管理ができること、あるいは支援できる家族がいることなども術後の回復のための大事な要素となります。

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術後の後遺症・合併症

膵臓がんの手術では、がんを含む膵臓の組織を部分的に切除するか、膵臓全体に広がるがんであれば膵臓を全摘出しなければなりません。

患者さんの中には、手術前から慢性膵炎等で膵臓の機能が低下している人も少なくありません。

また、膵臓の切除範囲が広いと残った部分だけでは十分に機能が補えない場合があります。

そのようなことから術後、膵臓の機能不全という後遺症が起こる場合があります。

また、手術では複雑な手術操作があり、膵臓以外の臓器を切除したことや吻合したことによっても後遺症が残る可能性があります。

考えられる後遺症

後遺症の中には合併症と区別が難しいものもありますが、ここでは後遺症を「手術後に数年もしくは生涯といった長期間に遺る症状」という定義で以下のようなものを挙げました。

糖尿病

膵全摘術では、インスリンを分泌する機能が失われるため、糖尿病は必発だとされています。

また、膵臓の一部を切除する手術法であっても、残った膵臓では機能が十分に果たせないと発症します。

治療としては、インスリン注射と定期の血糖値測定による血糖値のコントロールが必要になります。

膵全摘術を受ける場合、手術前から糖尿内科(内分泌内科など)と連携してインスリン注射の指導や練習を行っている医療機関もあります。

下痢や脂肪便など消化器症状

膵臓がんの手術後には膵臓機能低下による消化不良や下痢といった消化器症状が起こることがあります。

特に膵全摘術では、膵臓をすべて摘出するので起こりやすい合併症だと言えます。

術式によっては、膵臓などの周囲の神経も切除することがあるため、消化機能が低下することも考えられます。

術後は高脂肪食を避けたり、消化吸収のよい食事を摂ったり、消化吸収を促す薬や膵臓の消化酵素の代わりをする薬剤などを内服して対応します。

胆管炎

膵頭十二指腸切除術では、十二指腸も切除して残った胆管を直接に空腸に繋げる操作をします。

このため、胆管と空腸の吻合部分が細くなって胆汁の流れが悪くなったり、胆管に腸液が逆流することで胆管炎を起こすことがあります。

胆管炎は、稀に数か月から数年単位に長引いたり、稀に繰り返すこともあります。抗生物質や絶食、場合によってはドレーンを挿入して治療をします。

胃を部分切除することによる後遺症

膵頭十二指腸切除術では、胃の一部(幽門を含む十二指腸側)を切除して空腸に吻合します。

このため、手術後には胃が小さくなることで消化不良を起こしたり、直ぐに胃が張るような感じがあって食事量が減ることもあります。

また、胃の鉄分の吸収の機能に影響することがあり、術後に貧血となることがあります。

脾臓摘出による後遺症

脾臓は膵臓の左端(膵尾部)と接している臓器です。

このため膵尾部や膵体部がん、あるいは膵臓の全体に広がるようながんの場合には、手術の際に脾臓を摘出することがあります。

脾臓の働きは古くなった血球を壊したり、免疫に関わるリンパ球を育てる役割をしています。

このため、脾臓を摘出すると時に免疫が低下することがあったり、一時的に血小板が増え過ぎることがあります。

手術の合併症

膵臓がんの手術には色々な種類があります。主な術式と起こりやすい合併症は以下のようになります。

膵頭十二指腸切除術(PD)

膵頭部がんに対して行われる手術で、膵頭部・十二指腸・胃の一部(幽門側)・胆のう・胆管の一部を切除して、残った胃・膵臓・胆管の末端を空腸とつなぐ(吻合する)手術です。

この手術で起こりやすい合併症は以下のようになります。
  • 膵液ろう
  • 胆管炎
  • 胃排泄遅延
  • 胆汁ろう
  • 術後縫合不全
  • 創部感染
  • 輸入脚症候群
この手術では吻合箇所が多いために上記のような多くの合併症のリスクがあります。

尚、胃や幽門(胃と十二指腸のつなぎ目にある胃からの食べ物の通りを調節する部分)を温存する幽門輪温存膵頭一二指腸切除術、亜全胃温存膵頭一二指腸切除術では、胃排泄遅延は起こりません。

膵体尾部切除・膵尾部切除(尾側膵切除術)

これらの手術は、膵体部がん・膵尾部がんに対して行われる術式となり、膵臓の末端側の一部と脾臓・周辺リンパ節などを切除する手術です。

この手術で起こりやすい合併症は以下のとおりです。
  • 膵液ろう
  • 創部感染
切除した臓器を吻合する作業がないため、膵頭十二指腸切除術と比べると合併症は少ないことが言えます。

膵全摘術

膵臓全体に広がったがんに対して行われる手術です。膵臓の全部とリンパ節・脾臓などを摘出する手術です。

この手術では膵臓をすべて摘出するため、膵臓の機能が失われます。このため、糖尿病は必発とも言え、消化不良・下痢・食欲不振などが起こることが多くなります。

しかし、これは手術の合併症と言うよりは後遺症と言った方が適切かもしれません。

全身麻酔の手術全般に起こり得る合併症

いずれの手術においても、全身麻酔の腹部の手術全般に起こり得る合併症は以下の通りです。
  • 術後出血
  • 腸閉塞(術後)
  • 循環器合併症
  • 呼吸器合併症、術後肺合併症(術後肺炎・無気肺など)
膵臓がんでは高齢の患者が多いため、これらのリスクが高いとされています。

合併症の種類・対処

膵液ろう

膵液ろうとは、膵液が漏れることを指します。膵液とは膵臓で生成されている消化液となり、たんぱく質・脂肪などを溶かす強力な消化酵素が含まれています。

手術によって膵臓に傷がついたり、膵管と空腸を繋いだ部分が上手くくっつかなかったりすると、膵液ろうを起こすことがあります。

膵液の消化能力は強いため、少しの漏れでも大変な炎症を起こすことがあります。

膵液ろうを起こすと、膵炎や腹膜炎・腹腔内出血・腹腔内膿腫・縫合不全・創部感染などを合併する事態に至ることもあり、ショック状態に陥ることもあります

膵液ろうでは、強い腹痛・悪心・嘔吐・発熱などの症状が現れることがあり、ドレーン(手術の時に傷口に入れる管)からの排液はワインレッドとなります。

膵臓の炎症を抑える薬剤・抗生物質などを投与し、絶食して点滴での水分補給をする、などが主な対応になります。

胆管炎

膵頭十二指腸切除術において、ファーター乳頭部分を切除して胆管を直接に空腸に吻合します。

このため、胆汁の流れが悪くなったり、胆管に腸液が逆流すること等で胆管に炎症を起こす(胆管炎)ことがあり、時には感染を伴います。

症状は腹痛や発熱などが挙げられます。

抗生物質などで治療しますが改善しにくい場合には、ドレーンを挿入して胆汁の排出が必要な場合もあります。

胃排泄遅延

膵頭十二指腸切除術では、幽門を含む胃の一部を切除して空腸に吻合します。このとき、周囲の神経などが切除されます。

このため、術後には胃や消化管の動きが悪くなり、食物が停滞することがあります。

自然に軽快することが多いですが、症状が強い場合にはしばらく絶食にするなどの対処が必要になります。

輸入脚症候群

膵頭十二指腸切除術は、残った胃・膵臓・胆管を空腸と繋ぎます。繋いだ部分の膵液や胆汁の流れが悪くなったり、食べ物が逆流・停滞することで起こる症状を輸入脚症候群と呼びます。

症状は腹痛や嘔吐等で、絶食や食事を消化吸収しやすいものに変更したり、消化吸収を促す薬剤を投与します。

感染が見られる場合には抗生物質が投与され、改善が見られない場合や急性で穿孔や縫合不全などを伴う時には緊急手術が必要になることもあります。

胆汁ろう

膵頭十二指腸切除術では、胆管と空腸の繋ぎ目から胆汁が漏れることがあります。これを胆汁ろうと呼び、感染を伴うこともあります。

症状は腹痛や発熱などで抗生物質を投与したり、ドレーンを挿入して胆汁の排泄を促すような治療が検討されます。

糖尿病

膵臓はインスリンやグルカゴンといったホルモンを分泌し、血糖値のコントロールに深く関わっている臓器です。

膵全摘術後や膵機能が低下した状態で膵臓を切除した場合、手術後に膵臓機能が失われて(あるいはかなり低下して)インスリンの分泌不全が起こり、糖尿病(血糖値の変動が起こる)となります。

下痢

手術後に膵臓の機能低下による消化不良や下痢が起こることがあります。膵全摘術では、膵臓を全て摘出するために起こりやすい合併症の一つです。

そのため、高脂肪食を避けるようにしたり、消化吸収のよい食事を摂ったりするなどして対応します。

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腸閉塞(術後)

腸閉塞は腹部の手術に起こりやすい合併症です。術後数日~数年経ってから起こる可能性もある合併症です。

麻酔によって腸蠕動が一時的に抑制され、手術中に腸が外気にさらされることで腸の活動の再開が遅れます。

また、腹部の臓器を手術操作したことにより癒着が起こり、これによって腸の動きが制限されるために腸閉塞を起こすことがあります。

症状は腹痛・鼓腸(ガスが溜まって張り、お腹でぽこぽこと音がする)・吐き気・嘔吐・便通や排ガスの不良などです。

治療は絶食になりますが、酷い場合には詰まった部分の腸を手術で切除することになります。

腸閉塞の予防では、できるだけ早くから腸の動きを回復させることが大事です。

そのためには、手術後早期から寝返りなどを始めるなど、早く体を動かし、水分などを早く摂取することなどが挙げられます。

術後は絶飲食となるため、医師の指示に従って水分を開始しましょう。

術後肺合併症・循環器合併症

主には全身麻酔の影響による合併症とされ、いずれも高齢者にリスクが高い合併症です。

術後肺合併症には、無気肺や術後肺炎があります。これは手術中や手術後に同じ体位でいるため、が溜まってしまうことで起こります。

防止するためには術前の禁煙と術後は深呼吸をし、寝返りを打ち溜まった痰をしっかり出すことが勧められています。

術後縫合不全・創部感染

膵臓の手術では、膵臓・胆管・胃・十二指腸・空腸などを操作します。

これらの臓器はそれぞれ異なる消化液を分泌していて、酸性・アルカリ性など環境が異なります。

このため、異なる臓器の吻合部には、かなり負担がかかることがいえます。手術で吻合部が上手く繋がらないことがあり、これを術後縫合不全と言います。

また、胃や十二指腸・空腸は食べ物が通過するので細菌が存在する部分になります。

そのようなことから吻合部は細菌感染を起こしやすい状態なことが言えます。

縫合不全や創部感染は、手術の数日後に起こる悪寒を伴う急激な発熱、腹痛・腹部膨満・吐き気などで見つかることが多いです。

尚、高齢者や慢性膵炎を伴う方では、手術前の栄養状態が良くない場合があり、縫合不全を起こしやすいことが言えます。

予防には術前に栄養状態を整えておくことが大事です。

また、術後のリハビリや禁煙の継続も、創部の回復を促すために重要だとされています。

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参考文献等

  • 東京医科歯科大学肝胆膵外科「膵がん」
    東京都文京区湯島1-5-45
    http://www.tmd.ac.jp/grad/msrg/pancreas/cancer01.html
  • 国立研究開発法人国立がん研究センター東病院「膵がん」
    千葉県柏市柏の葉6-5-1
    https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/hepatobiliary_and_pancreatic_surgery/050/3/20171102124510.html
  • 国立がん研究センターがん対策情報センター「膵臓がん 基礎知識」
    東京都中央区築地5-1-1
    https://ganjoho.jp/public/cancer/pancreas/
  • 一般社団法人日本肝胆膵外科学会「膵臓がん」
    新宿区住吉町1-15
    http://www.jshbps.jp/modules/public/index.php?content_id=14
  • がん研有明病院「膵臓がん」
    東京都江東区有明3-8-31
    https://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/pancreas/index.html

膵臓がんの関連書籍




  • 糖尿病と膵臓がん著者:長尾和宏
    糖尿病と膵臓がんの関係性をわかりやすく解説。糖尿病と膵臓がんを診続けている医師だから書けた書籍。

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